メリット デメリット
規模の経済の実現 買収コストの負担
市場シェアの拡大 文化や価値観の不一致
新規市場への参入 従業員のモチベーション低下
技術やノウハウの獲得 統合プロセスの複雑さ
ブランド価値の向上 シナジー効果の不確実性
経営多角化によるリスク分散 競争法・規制問題
人的資源の補充 顧客離れのリスク
競争回避 負の遺産の引き継ぎ
迅速な成長 経営資源の浪費
税務上のメリット 株主の反発

M&Aのメリット

上の表に出てきた各メリットについてかんたんに解説します。

規模の経済の実現

M&Aにより、買収企業と統合することで生産量や販売量を増加させ、単位当たりのコストを削減できます。これには、原材料の一括調達や物流コストの削減、生産設備の共有などが含まれます。特に製造業や流通業では、規模の経済を実現することで競争力を大幅に高めることが可能です。さらに、人材やITシステムの重複削減により、管理コストも抑えられます。ただし、統合がスムーズに進まなければ、逆にコストが増加するリスクもあります。

市場シェアの拡大

M&Aを通じて競合企業を取り込むと、その企業が持つ市場シェアを一気に取得できます。特に競争が激しい業界では、シェアの拡大が競合他社への優位性確保に直結します。また、既存の取引先や顧客基盤を共有することで、販売網やマーケティング活動を効率化できます。これにより、新規顧客の獲得やブランド認知度向上を迅速に進めることが可能です。

新規市場への参入

M&Aは、地理的・産業的に未開拓の市場へ短期間で進出する手段となります。例えば、海外企業の買収により、現地の市場知識や顧客ネットワークを活用できます。これは、ゼロから市場を開拓するよりもリスクが低く、時間とコストを節約できます。また、新規市場での買収により、現地の規制対応や文化への適応もスムーズになります。

技術やノウハウの獲得

M&Aは、自社にない専門技術やノウハウを迅速に獲得する手段です。特に、技術革新が早い業界では、買収により競争優位性を確保できます。例えば、IT企業がスタートアップを買収して新技術を取り入れるケースがあります。このようなシナジー効果により、製品開発のスピードアップやサービス向上が期待できます。

ブランド価値の向上

知名度の高いブランドや優れた評価を持つ企業を買収することで、自社のブランドイメージを向上させることができます。例えば、高級ブランドを傘下に収めることで、企業全体のポジショニングを高めることが可能です。また、ブランド価値が高まることで、新規顧客の獲得や既存顧客のロイヤリティ向上も期待できます。

経営多角化によるリスク分散

M&Aは、異なる業界や市場への進出を通じて収益源を多様化する手段となります。例えば、主力事業が景気変動の影響を受けやすい場合、安定収益を生む事業を取得することでリスクを軽減できます。また、多角化は競争の激しい業界において生き残るための重要な戦略となり得ます。

人的資源の補充

M&Aにより、優秀な経営陣や専門スキルを持つ従業員を確保できます。これは、競争の激しい市場において大きな強みとなります。特に人材不足が深刻な業界では、必要な人材を効率的に獲得できる点が魅力です。また、買収先企業の従業員の知識や経験を活用することで、企業全体の成長を促進できます。

競争回避

競合企業を買収することで、競争環境を緩和し、市場での優位性を確保できます。例えば、競争激化による価格下落を防ぐために、競合他社を取り込む戦略が採られることがあります。また、競争相手を減らすことで、自社の利益率を向上させることが可能です。

迅速な成長

M&Aは、通常の成長プロセスでは時間がかかる事業規模の拡大を、短期間で実現する方法です。特に、新製品開発や市場開拓にかかる時間を短縮できるため、競争環境が激しい業界では重要な戦略となります。成功すれば、競合に対してリードを保つことができます。

税務上のメリット

買収先企業の損失を繰り越して税負担を軽減するケースや、統合により税制優遇を受ける場合があります。また、グループ内での損益通算を活用することで、全体的な税負担を最小限に抑えることができます。ただし、税務効果を最大化するには、専門家の助言が重要です。

M&Aのデメリット

上の表に出てきた各デメリットについてかんたんに解説します。

買収コストの負担

M&Aには莫大な資金が必要です。買収価格が高騰すれば、それに伴い借入金や負債が増加し、財務健全性が低下する可能性があります。特に、高額な買収に対して期待したシナジー効果が実現しない場合、投資効率が悪化し、株主や市場からの信頼を失うリスクも高まります。また、買収コストには直接的な購入費用以外に、統合プロセスや諸手続きに関わる隠れたコストも含まれます。

文化や価値観の不一致

M&Aにより異なる企業文化や経営スタイルが一つに統合される際、組織間の摩擦が生じることがあります。これは、従業員同士の対立や意思疎通の欠如を引き起こし、統合プロセスを遅らせる要因となります。特に国際M&Aでは、言語やビジネス慣習の違いが問題を深刻化させることが多いです。文化の融合が進まなければ、買収後の成長が阻害されるリスクがあります。

従業員のモチベーション低下

M&A後のリストラや役職変更、統合プロセスによる不透明感が従業員の士気を低下させることがあります。従業員が将来に不安を抱くと、離職率の上昇や生産性の低下につながります。特に、買収された企業の従業員にとっては、旧経営陣の退任や業務プロセスの変更が心理的な負担となる場合があります。

統合プロセスの複雑さ

M&Aの成功には、買収後の統合プロセスが鍵を握ります。しかし、ITシステムや業務フロー、管理体制の統合は複雑で、多大な時間と労力が必要です。不完全な統合が行われると、無駄なコストや業務の混乱が発生し、買収の目的を果たせなくなる可能性があります。統合計画の失敗は、企業全体のパフォーマンスを低下させる原因となります。

シナジー効果の不確実性

M&Aの主要な目的の一つであるシナジー効果が期待通りに得られない場合があります。これは、買収時の見積もりが過大評価されていたり、統合後の業務効率化が計画通りに進まないことが原因です。シナジーが実現しない場合、買収コストの回収が難しくなり、企業価値が損なわれるリスクが高まります。

競争法・規制問題

M&Aが市場の独占や競争の抑制につながる場合、競争法(独占禁止法など)や各国の規制機関の審査が課題となります。これにより、M&Aのプロセスが遅延し、計画通りに進められない可能性があります。場合によっては、規制当局からM&Aの一部撤回や条件変更を求められることもあります。

顧客離れのリスク

M&A後、統合に伴う混乱やサービスの質の低下が顧客満足度に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、買収企業の顧客が新しい体制やブランドに馴染まない場合、競合他社に流れるリスクが高まります。また、サービス変更に伴う価格改定や品質低下が、既存顧客との信頼関係を損なう場合があります。

負の遺産の引き継ぎ

買収企業が抱える負債や訴訟リスク、法的問題を引き継ぐ可能性があります。買収時に適切なデューデリジェンスが行われていない場合、想定外のリスクが後から顕在化し、企業経営を圧迫することがあります。また、環境問題や社会的責任など、長期的なリスク要因も買収後に明らかになるケースがあります。

経営資源の浪費

M&Aの計画や統合プロセスに多くの経営資源を割くことで、本来の事業活動が疎かになるリスクがあります。これにより、既存事業の成長が停滞したり、競合他社に市場シェアを奪われる可能性があります。M&Aに集中しすぎることで、企業全体のバランスが崩れるリスクがあります。

株主の反発

M&Aが株主の利益に直結しない場合、反発を招く可能性があります。特に、買収資金が株主配当や株価上昇に使われるべきだと考える株主にとって、M&Aはネガティブな戦略と捉えられることがあります。また、買収後に株価が下落したり、収益性が低下した場合、株主から経営陣への信頼が失われるリスクが生じます。

みんなの意見

賛成意見 反対意見
M&Aは同業他社を買収することで、業界シェアをいっぺんに大きくできることが利点です。

かつて流通国内最大手のイオンがダイエー株の半分以上を取得し、子会社化することを発表しました。この買収によって、イオンは業界シェアを一挙に伸ばすことが出来ます。

また楽天は銀行・カード会社・旅行会社などの異業種を次々と買収し業務範囲を広げました。M&Aのもう一つのメリットは、このように異業種に進出できることです。どちらの場合も自前で一からやっていたら速くても数年かかります。
M&Aは全く違う会社を買収するわけですから、その後の買収された会社の統治機構をどうするのかが一番の課題です。買収前と同じ社長・取締役で経営させれば、波風は立ちませんが、自分たちの思うような経営改革はできません。

一方買収した会社から社長以下取締役を送り込めば、社員との間で軋轢がおこり、会社がうまく機能しない可能性もあります。

買収された側の会社の企業風土と社員のプライドを尊重しながら、いかに意識改革を行なっていくか非常に難しい問題があります。
仕事でいくつかのM&Aを経験していますが、一からビジネスを立ち上げるのに比べて、一気に事業拡大に持っていけるという点が最も良い点だと思います。

株主から事業拡大を求められるなか、新規事業を立ち上げるには莫大なコストがかかりまた従業員教育をするのも非常に難しいですが、M&Aをすれば短期間でこれらを取得できます。

また、もともと会社が持っていた事業との連携を、単なる事業連携と比べて資本提携したほうがより深く図れるというメリットもあるように思います。
ポストM&Aが難しいというのが実感です。それまでは別々の経営であったために、それぞれの会社のカルチャーが違うし、社内のルールなどもまったく違うために、それを整合していくのは、難しい面があります。

この点は、デューデリ段階である程度分かっていても避けられない点で、M&A後の写真をどのように描いてM&A段階から、準備を進めていくことが重要になってくると思います。

しかし実際は、重要なポストの人材が退職してしまったり、デューデリで分からなかった問題が発生してしまうこともあります。

巨額のお金を使った割に実際はそれほど利益が出なかったり、従業員のモチベーションが下がりそれまでの成果が維持できなかったということもあり、日本のカルチャーでは、理論以上に難しい面があるように感じます。
M&Aの良いと思う点は、良い企業が更に収益率をあげることが出来る点です。M&Aが出来るということは、借入なども含めて十分な収益力があるということです。

そういった優れた企業が、他の同じように収益力の高いビジネスを持っている企業を買収することで、全体としての価値は更に高くなります。

上場しているのであれば、株価の評価は更に高くなるでしょうし、それぞれのビジネスを組み合わせることで更なる収益力の増加も見込まれます。
例えば、収益力は悪化しているけれどもある程度の規模のある会社が、自社の収益力を改善させる目的として、他の企業の買収を行うことがあります。

よくあるのが元々の子会社の上場株式の全てを買い増しして完全子会社化するというものです。

この場合、買収された企業はせっかく本業で稼ぎを出しても、それは親会社の赤字の埋め合わせに使われてしまうため、子会社のビジネスの拡大には全く寄与しない事になってしまいます。

この場合、子会社の視点から見ればM&Aをされたことは全くの迷惑という事になってしまいます。